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第160回 東京小説読書会の報告

こんにちは!SHOKOです。2020年1月31日(金)、東京小説読書会「長篇(シリーズ)読破版」の第23回目として、田辺聖子著、新源氏物語 “霧ふかき宇治の恋”(新潮文庫)の上下巻を課題本に読書会を行いました。

昨年10月から始まった、田辺聖子さんの新源氏を読む読書会も、いよいよ今回で最終回となりました。“宇治十帖”をわかりやすく美しい日本語で現代語訳された“霧ふかき宇治の恋”は、古典に馴染みのない読者でも楽しめる恋愛小説となっています。

光源氏亡き後、そのDNAを受け継ぐ貴公子たちの恋模様が、宇治を舞台に繰り広げられます。物語の時代は、貴族的な文化が成熟して落ち着いてきたあたりでしょうか。千年以上も前の話なのに、親の資産と威光を背負った二世、三世の生き様って、現代とそんなに変わらないかも…と思いました。(そんな話じゃないはずなんですが…)

以下、ネタバレを含みます。

■源氏物語とくらべて

伝説の貴公子・光君の孫(匂宮)と息子(薫)とは思えないような、不器用で不完全な恋愛事情が生々しく描かれているせいか、

“普通の恋愛小説として面白い” “むしろ恋愛小説としてはこっちのほうが面白い”

という感想が多かったです。

また、光源氏が満月のように欠けのない圧倒的な存在だったのに対して、匂宮や薫には絶対的なカリスマ性はありません。ヒロインたちも、源氏物語にくらべたら個性がちょっとおとなしい(地味?)。それだけ物語に現実味がでている、親しみやすいスケールになっているということかもしれませんが。

”主人公たちの欠点によって物語が進行していくのが、現代の純文学みたいだ”というご意見になるほどーと深く頷いてしまいました。

■薫と匂宮について

どちらにも魅力を感じない!という厳しいご意見もあった二人の貴公子については、

“建前がないと行動できない男&将来大成しない男”

“母系社会の成功例&失敗例”

“母親が中宮で華やかな宮中で育った男&母親が出家しているという状況で育った男“

“うすっぺらい男&めんどくさい男”等々…。

ちなみに、薫は女三の宮と柏木の不義の子ですが、本人がそうと知らずに成人し、無意識にいろんなところに影響が出ているというご指摘がありました。

特に恋愛に関しては、実父・柏木の、思い込んだら一途(思い込みが激しい?)、手に入らないものに執着する、、という残念なDNAが受け継がれてしまっています。ところが、彼の女性に対する態度(保護者のような態度をとるところや説教くさいところ…)については、源氏と女三の宮の夫婦関係が見事に影響してしまっています。実父と世間的な父、両者の残念な部分を受け継いでしまっている気がします。。(でも、悪い人じゃないんですよ!)

対する匂宮は、100%源氏の孫なので、美しい容姿や女性に貪欲なところは受け継いだようです。ただ源氏のような優しさが、この皇子様にはありません。周囲が“浮気者”と評価しているように…軽いです。そして、熱しやすく冷めやすいというタイプですね。(別に、悪いひとじゃないんだけど。)ただ、こんな息子がいたら可愛いだろうな、という母親目線だと許せます。

また、光源氏と頭中将は、清々しいライバル関係、いい友情を育んでいた印象がありますが、この二人の関係性については、“友情”とは違いますよね。(そもそも立場も違うので仕方ないのですが。)お互いを意識しまくるのは、年齢的に近いせいでしょうか。

そして、二人とも “あんまり働いてる感じしないね”という、、。前世代の男たちには、政治的な野心が見られましたが、その孫世代ともなると、もうただの高等遊民になっちゃうんだなと。(そして恋にうつつを抜かす。)

■ヒロイン、ややこじらせ

新世代のヒロインたちが活躍するなか、玉鬘や真木柱の君という旧世代のヒロインが、いい感じに年を重ね、貫禄もついて素敵な平安の中年女性になり再登場しており、令和の中年女性としては、嬉しい気持ちになりました。

仏道に興味を持つ薫が、教えを乞うために俗聖の八宮を慕ってわざわざ宇治までに通い、恋に落ちるのが八宮の長女・大君です。この二人が似た者同士なんです(こじらせ男vsこじらせ女)。深読みしすぎて、お互いに好きなのに、清い関係のままで終わってしまうという、、、突っ込みどころ満載のもどかしい恋。薫の“本命に手を出せない”というところは、男性の立場だと共感できるところが少なからずあるらしいです。(ちょっとキモい…)

また、この大君の長女気質は、現代にも通ずる!と盛り上がりました。母親を早くに亡くし、妹である中君に対する責任感がやたら重くなってしまっていて、いろんなところで悩みすぎ、結局自分を犠牲にしてしまうという。。長女あるあるです。

対する次女・中君は、思いがけず(周りのお膳立てで)匂宮の妻となるのですが、頑なな姉と異なり柔軟で素直です。浮気者の匂宮をうまくあしらい、執着する薫をあしらい、息子も生んで着々と身辺をかためていきます。宇治の片田舎でひっそり住んでいたところから東宮候補の妻になり、短期間で激変した環境にうまく適応してます。姉の失敗からも学習してたりするのかな…処世のうまさ、チャッカリ感が次女あるあるです。

そして、やはりの男性支持率No.1・浮舟。従順(薄幸)な女性って男性の庇護欲というか支配欲をそそるのでしょうか。彼女の場合、美人なのに大事にされすぎて、モテ慣れていなかったことが不幸の原因という見解がありました。その状況について、参加者の方から

“地方の公立に通っていた女の子が、東京の大学に入学。友達に誘われて入ったサークルでモテまくる。(間違いが起こりやすい)”

というわかりやすい例えで説明していただきました。大君のときにあんなに自分を律していた薫が、浮舟に対しては速攻手を出していたところに、地方の受領の娘という彼女の立場をちょっと侮っていたんだろうなぁと思わずにはいられません。

■読者の心を捉え続けるもの

この浮舟と婚約しようとしていた少将という男性が、受領の実の娘ではないと知ってその妹に乗り換えるエピソードは、平安貴族のリアリティだなぁと話題になりました。貧乏な公家がいたり、身分は高くない地方の受領が金持ちだったり。少将の行動について、品はなくても、そんなこといってられない!という当時の男性の本音がダダ漏れていて面白いです。

また、源氏物語や宇治十帖から、“女って生きづらいわねー”という筆者(紫式部)の想いを読み取れた、という方がいました。主人公は男性ですが、実は男性を通して、様々な女性の生き様を描いているのでは?ということです。確かに、源氏や薫、匂宮よりも、彼らと関わった様々な女性たちのエピソードのほうが心に残ります。

さらに、終わり方がきれいだという感想がありました。自己主張がなかったヒロイン・浮舟が(今までの人間関係とは決別する)と決断するところで物語が終わるのですが、それと並行して、仏道に傾倒していた薫が、出家した浮舟に対して“また男でもいるんじゃ…”などと邪推し悶々とします。男女の対照的な態度が、彼らのその後を連想させます。

今回初めて源氏物語を読んで、他の訳も読みたくなったという声があり、課題本にしてよかったなぁとつくづく思い、毎度で申し訳ないのですが、まとまらないまま終了となった次第です…。活発に意見が飛び交う楽しい読書会でした。参加者の皆様、ありがとうございました。

次回は、モームの名作に挑戦します!

2020.1.31開催、2.7記

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