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第151回 東京小説読書会の報告

こんにちは!SHOKOです。2019年10月25日、東京小説読書会「長篇(シリーズ)読破版」の第20回目として、田辺聖子著、新源氏物語(上)(新潮文庫)を課題本に読書会を行いました。

「新源氏物語」は、今年6月に亡くなられた田辺聖子さんによる「源氏物語」の現代語訳(翻案)で、その読みやすさと面白さから、刊行されて40年以上たった今でも広く支持を集める名作です。「注釈を見ないでも読めるおもしろい読み物」を目指したと作者が語る通り、わかりやすく美しい言葉遣いで描かれており、令和の今も読者を魅了する恋愛小説といえるでしょう。

「新源氏物語」の(上)は、原典の“空蝉”~“澪標”までが含まれています。有名な“いづれの御時にか…”という源氏の誕生の巻(桐壺)と“帚木”が省略されていて、最初に読んだときには“え?”と思ったものですが、母親の死という生い立ちの暗い部分を知らない状態で物語を読みはじめると、光源氏という青年が“恋多き貴公子”として颯爽と登場する印象が残る気がします。

以下、ネタバレを含みます。

今回参加いただいた方のほとんどが、源氏物語は知っていたけど、「新源氏物語」は初めて読むという方ばかりでした。また、“この機会がなければ一生「源氏物語」は読まなかったかも”というお声もありました。一生読まずに終わるには惜しいくらい面白い物語なので開催がきっかけになってよかったです!!「あさきゆめみし」の次には、ぜひ田辺源氏を読んでください。

■光源氏というスーパーフィクションなイケメンについて

唯一の男性参加者からは酷評な主人公でしたが、女性の評価は概ね上々でした。高評価の理由としては、“マメ!”、“関係をもった女性の面倒をみてあげるのがいい(もはや慈善家の域)”など…。現代以上に女性が生きていくのが大変だった時代、衣食住の面倒を見てもらえるのはありがたいです(切実)。また、ストライクゾーンが広範囲(幼女から老女まで…)なのも有難いです(?)。ちょっとお顔がアレな女人に対しても“髪が綺麗”と、いいところをちゃんと見つけてあげるなんて素敵、、と言ったところ、“いやいや、そのフォローは女性のためというより自己弁護だ”という指摘がありました。基本150%上から目線なのですが、天皇の息子ですから仕方ないと思いますよ(と、イケメンに優しい私)。また、いくら平安時代でもここまで自由に恋愛をしている人なんていなかっただろうから、願望や憧れの存在(まさにスーパーヒーロー)として描かれているのではというご意見がありました。

そんなヒーローのネガティブポイントとして話題になったのが、幼女誘拐…いえ、若紫の巻における強引さや、自分の恋人(六条御息所)の娘に下心を抱くものの、母親から“手出さないでね”と釘をさされるや、世話はしますよと言いながら自分の政治の手駒につかおうと画策するところ、、というエピソードがあげられました。後者については個人的には、夢見がちな恋する青年が、野心を持ち、大人のいやらしい部分を出し始める変化が面白いと思いましたし、前者については、、現代の価値観でみれば犯罪ですけど、、千年前はどうなんでしょうか。(いや、犯罪でしょう…)

■個性的な女性たち

恒例の人気投票を行ったところ、1位は六条御息所でした。“あさきゆめみし”ファンの方は、漫画だとビジュアル的な怖さが強いが、本編では、高貴で美しく教養高い大人の女性として描かれていて、印象が変わったということです。また、田辺聖子さんの“情念”の描き方がとても上品だというご意見もありました。源氏が彼女に嫁(葵の上)のことを愚痴るも、“女が女のことをとやかくいうのは、はしたないことですわ”とさらっと受け流します。大人の女のお手本のような発言が素晴らしいですね(見習わないと!)。そして、口に出せなかった思いが強すぎて、生霊になっちゃったのでしょうね。。結局二人殺めちゃう生霊のホラー味に面白さを感じる人が、当時は今より多かったのではないかなと思いました(ドキドキしますよね)。亡くなる直前に娘の今後を源氏に託す件は、女として母としての葛藤が見られて興味深いというご意見がありました。

また、感情移入しやすいキャラクターとして空蝉があげられたのですが、逆に、源氏に対して強い意志で拒否するところにリアリティが感じられないという方もいらっしゃいました。朧月夜と空蝉は最終的に源氏以外の男性との人生を選ぶのですが、自分の立場や状況を見極めるあたりは、とても賢いな~(強か?)という印象をうけます。

源氏の正妻・葵の上ですが、なんといっても結婚したタイミングが微妙だったかもしれません。源氏の中で藤壺への気持ちが特に高まっていた時期、しかもそれがダダ洩れていたようなことが、“燃ゆる紅葉のもと人は舞うの巻”に書かれています。夫婦の距離についての、葵上のもやもやする感情が詳細に描写されていて、気の毒な女性だなぁという印象をうけるのです。このあたりは田辺さんオリジナルじゃないかな…。とはいえ、一番不幸な女性は紫の上、ということでは意見が一致しました。源氏がつくった世界にしか生きられないという状況、無邪気な発言も、可愛らしい嫉妬も、男が思い描く理想の教育を施された成果なのではと、読んでいてモヤっとしました。

平安時代、恋愛のピークタイムは夜、暗闇のなかで諸々行われるということから考えると、見た目と同じくらい、もしくはそれ以上に“教養”が美点として大きく評価されていたということがわかります。末摘花姫が超絶ブスと表現されるのは、見た目もあるのでしょうが(さすがに…)、返歌できなかった、気の利いた会話ができなかったという部分も多いに影響しているのだろうと思い至るのでした。個性を書き分けながら、女性各々の知性も描き分けている作品だという指摘があり、一同大きくうなずきました。

■紫式部は女好きだった?

“紫式部ってレズビアンかと思った”というドキっとするような感想もありました。そう思えるくらい女性がいきいき描かれているし、そのためにすごく観察してたんじゃないのかなぁということでした。インターネットはもちろん、通信手段が限られたなかで、どうしてこんなにたくさんのエピソードを、あたかも見聞きしたように創作できたのだろう?という疑問に、“今よりも女性同士のコミュニティが密で凄いことになっていた上に、おしゃべりが重要な娯楽だったのでは”というご意見がありました。女性の考えることは、今も千年前もそんなに違わないことに気づくと、作品を通して、当時の女性たちとコミュニケーションしているような気分になるのでした。

ちなみに、源氏とヒロインばかりでなく、圧倒的モテメン源氏に対して、いつも自然体で接する良きライバル、ナイスガイ頭中将!や源氏をディスらず朧月夜をじわじわ口説く、地味だけど優しい朱雀帝など、どの登場人物もいい味出てます。体感して楽しめるように、原典からだいぶ下世話にしているのにも関わらず、そう思わせない田辺聖子さんの筆力が素晴らしい、多様な解釈があり、イマジネーションを刺激する美しさのある作品なので現代語訳したがる作家が多いのも納得できる等々、話題の尽きない楽しい2時間でした。参加者の皆さん、どうもありがとうございました!

次回は、恋多き多感な青年もやがて中年になるのです…新源氏物語(中巻)で開催予定です。ご参加お待ちしております!

2019.10.25開催、10.27記

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