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第137回 東京小説読書会「シリーズ平成の5冊 第4回」開催報告


弊会では改元を記念して、これまでご参加いただいた皆さまの投票により「平成の5冊」を決定しました。それらを順繰りに課題本に設定してきましたが、今回は最多得票を得た『ハーモニー』です。

※※※以下、ネタバレを含みます※※※

第1回 2019.6.1

『コンビニ人間』村田沙耶香著

第2回 2019.6.7

『火車』宮部みゆき著

第3回 2019.6.15

『何者』朝井リョウ著

第4回 2019.6.19

『ハーモニー』伊藤計劃著

第5回 2019.8.24

『1Q84』村上春樹著

■健康長寿の近未来

『ハーモニー』の舞台は西暦2060~70年代。2019年にザ・メイルストロム(大災禍)と呼ばれる暴動が起き、20発以上の核弾頭が使われたあとの世界です。人びとが求めたのは、憎しみがなく、健康で長生きできるユートピア。作中で民を統べるのは「政府」ではなく「生府」といい、住民は性成熟するとWatchMeで体内を監視されるようになります。

このシステムのおかげで、体内の異常は即座に検知されるようになります。WatchMeは異常を見つけると、メディケア(個人用医療薬精製システム)にはたらきかけ、メディモル(医療分子)という万能薬を生成します。おかげで、ほとんどの人は病気を知らずに生涯を送ります。

主人公の霧慧(きりえ)トァンは、一連のシステム開発をなした研究者の娘。友人の御冷(みひえ)ミァハは、WatchMeに監視された世界に懐疑的で、その気になれば人類を滅亡させることもできるといった趣旨の発言をします。トァンは、もう一人の友人である零下堂キアンとともに、このクレイジーなミァハの考えに惹かれていきます……。

■練り込まれた世界

本日お集まりいただいたのは10名。うち7名が再読といい、「3~4回目」という方も2名いらっしゃいました。それほど中毒性がある原因の一つが、「作中世界のつくり込みの細やかさ」と「読みやすさ」だと言います。

今回3回目という方は、

「海外のSFは理論が長々と書かれるが、『ハーモニー』はそのようなことがない。2060年代以降の世界が、緻密ながらも読みやすく説明されていて、力のある作者だと思った。初読時は世界観に圧倒されて読み終えたが、読み返すたびに文体のやわらかさを感じる」

と話されていました。

設定に関しては、「メディケアやWatchMeは、現代のテクノロジーでも実現できそうな気がする。でも倫理上、実現させていないだけなのでは、と感じさせるほどリアルに感じた」といった感想もありました。

また、WatchMeと並ぶ本作の設定に、オーグ(拡張現実)があります。これは、目の前にいる人物のプロフィールを教えてくれたり、次に何をすべきか指示を与えてくれたりするシステムです。

オーグについては、「何でも決めてくれる世界には悩みもなく、一つの理想だと思った。しかし同時に、意志には一体何の意味があるのだろうか、とも考えさせられた」という感想が寄せられました。

■著者について

著者の伊藤計劃は2009年3月、34歳で早逝しました。『ハーモニー』はその3カ月前に発行されています。著者は入院中に本作を執筆したそうですが、だからでしょうか、本作には、生きることの意味を問うシーンやセリフが多いように思います。

〈自分は生きている。生きているということは、しくじった。〉(文庫新版 p65)という1行は、その象徴でしょう。

ほかにも参加者から、

「全編を通じて、健康を懐疑的に見ている気がした。死を肯定している、とまでは言えないが、“つくられた健康”のようなものを嫌っていると感じられた」

「WatchMeに監視された世界を懐疑的に描いているため、『ハーモニー』を読むと、健康でいることへの弊害を考えさせられる。その発想が、伊藤計劃ならではだと思った」

という話がありました。

■意思は邪魔者なのか

人類は本作の結末で「意識のない世界」を迎えます。

「意識があると、憎しみが生まれ、戦争も起きる。ならば全人類の意識をなくしてしまえばいい」というのが、そんな結末を引き起こしました。

本作では、意識の消失した世界こそ全人類が調和した世界であると規定していて、これが書名にもなっています。

しかし、果たして意思のない世界はユートピアなのでしょうか。

この点については、「意識がなくなったら生きている意味はないと思う。だから結末はバッドエンド。ハーモニーを迎えるまでは、WatchMeのある世界はユートピアかもしれないと思っていたが、意外と規制も多く、生きづらいだろうとも感じていた」というディストピア派と、「作中世界に生きている人からしたら、ハーモニーこそ求める世界だっただろう」というユートピア派に意見が分かれました。

このほか、「ユートピアかディストピアかという二者択一ではなく、ユートピアであり、かつ、ディストピアでもあると思う。良いものを突き詰めると、どうしても代償を払わなくてはならなくなる。その意味を考えさせられる結末だった」という声も聞かれました。

■人間の弱さ

これらのほかに寄せられた主な感想には、

「生物は均一になることで弱くなる。それに照らせば、WatchMeのある世界そのものが、一見するとユートピアに見えて、その実はディストピアなのかもしれない」

「作中で、動物にも意思があるのか、ないのかということが書かれていた。このことは、『意思のある人間は上等なのか?』と問いかけているようにも感じた」

「最後に実現した世界が、果たしていつまで続くのだろうか、と思った」

といったものがありました。

さて、今回は、課題図書型としては過去最多に並ぶ10名参加のもと行われましたが、これだけ参加者が多いと、どうしても話が散漫になってしまいます。

本来であれば、進行役がうまくハンドリングしていかなくてはならないのですが、その点で不備があったと感じています。

特に『ハーモニー』のように多様な意見交換がなされると想定される場合は、参加者に事前に質問を出しておいて、それに沿って読書会を進行していくのも一策かなと思いました。

そのように反省しつつ、2時間の読書会を終えた次第ですが、どうか今回に懲りずまたお越しくださいませ。

お待ちしております!

2019.6.19開催、10.12記

 
 
 

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