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第139回 東京小説読書会の報告


こんにちは!SHOKOです。2019年7月26日、東京小説読書会「長篇(シリーズ)読破版」の第17回目として、「ヘミングウェイ全短編1“われらの時代 男だけの世界”」(新潮文庫)を課題本に読書会を行いました。

「長篇(シリーズ)読破版」なのに、短編集?と思われる方もいらっしゃるかもしれません…。今回は“シリーズ”というカテゴリーとして提案させていただきました。さらに、最近読書会のメインストリームで長篇小説の課題本が多いので、息抜き?的な意味合いもあります。また、本シリーズを通してヘミングウェイという偉大なるノーベル文学賞作家の理解を深めたい!さらに個人的な積ん読の解消!etc.、いろいろな期待を込めて開催の運びとなりました。

シリーズの第一弾“われらの時代 男だけの世界”には、パリ時代のヘミングウェイの初期作品をメインに、「雨のなかの猫」「二つの心臓の大きな川」「殺し屋」など、珠玉の31編が収録されています。男の中の男(のイメージ)ヘミングウェイが描くマッチョな作品について、文化系マッチョ(たぶん…)な男女、計9名で語り明かしました。

以下、ネタバレを含みます。

今回の課題図書が初ヘミングウェイという参加者の方もいらっしゃり、みなさん概ね新鮮な気持ちで作品を鑑賞されたようです!

「お酒の描写がかっこいい」「会話がウィットに富んでいて面白い」「湿度が低くて“男”!!という感じ」「筒井康隆のショートショートみたい」という感想がある一方で、会話については「友達同士で話せばいいじゃん、みたいなことを読むのがちょっと苦痛に思えた」という方、「面白いと思う読者とつまらないという読者の二極に分かれる作家なのでは?」「英語の原文で読んだほうがいいような気がした」などのご指摘もありました。ちょうど今、ヘミングウェイの短編から英文法を学習するという書籍が出版されているということで、英語の勉強をかねて、いいタイミングだったとおっしゃる方もいました。英語と日本語と両方読み比べることができたら最高ですよね。

■男同士が楽しそう(←変な意味はないです。)

淡々と短い言葉を重ねて交わされる男同士の会話や、趣味(釣り、ボクシング、闘牛)のしつこい描写(笑)にヘミングウェイらしさを感じました。女と付き合うより、男同士の付き合いのほうが気楽で楽しいぜ!(←変な意味はないですよ!)という雰囲気が至るところから伝わってきます。また、男女間の温度差は、今も昔もあんまり変わらないんだなとも思いました。登場する男性たちはどいつもこいつも(もしくはヘミングウェイ自身が?)“クズだよね?”というご意見と、“いや、そんなもんじでしょ?(男性の本質だよ)”というご意見がありました。全篇を通して登場する数組のカップルは、男友達の忠告で恋人と別れてしまったり(「ある決別」)、子供を望む女性と望まない男性が殺伐とした会話を繰り広げてたり(「白い象のような山並み」)、恋愛に対しての男女間の温度差がわっかりやすいですよね。“男だけの世界”へ移っていく直前に挿入された短編「北ミシガンで」は、他にくらべて現代っぽくて読みやすいという感想がありました。小さな村のカップルのある一夜を描いた作品ですが、デートより仲間と狩り行ったり酒飲んだりするほうが楽しいんだな!という男性心理がよーくわかります。

■ニックについて

短編集ではありますが、ニックという男性が主人公のものが数編あり、時系列で読むと彼の少年時代から青年時代までの物語になっています。(ただ作品集のなかでの並びは時系列になってません。)参加者の方が印象に残った作品アンケートをしたところ、上位はニックの物語でした。特に人気が高かったのは「二つの心臓の大きな川」です。ソロキャンプ日誌です…。何か事件が起こるわけではないのですが、ニックがたどる行程や釣りのマニアックな描写を読んでいると、一緒に森を歩いているような気分になります。さらにニックとその友人・ビルがウィスキーを飲みながら、とりとめのない会話を繰り広げる「三日吹く風」も人気がありました。お酒が美味しそうです。おいしそうな料理もよく出てきます。手順にこだわっている感じがいかにも男の料理ですな。ちなみに、ニックのその後は“短編集2”にも描かれているらしいので楽しみです!

■釣り、ボクシング、闘牛、競馬…

ヘミングウェイという人は、多趣味でハマるとのめり込む人だったんだろうな!と参加者全員で確信しました。好きなものに対する並々ならぬ情熱が作品を通して伝わってきたという感想がありました。ボクシング(「五万ドル」)や闘牛(「敗れざる者」)は、めちゃめちゃうまいナレーションで実況を見ているような気分になる作品です。細部まで臨場感たっぷりに表現されていますね。「敗れざる者」は闘牛の話ですが、出来事の中心に近すぎて途中ちょっと流れがわからなくなってしまったり(汗)、実際の闘牛を見たことがないため、新鮮な発見がたくさんありました。 “辮髪って中国の髪型だと思ってたのに、闘牛士もしてるんだ!”ということが話題にのぼりました。”力士の髷みたいなものらしい“という説明に納得。ちなみに、スペイン語で”辮髪を切る“というのは”仕事を辞める“ということらしいです。

■特殊な仕掛け?

“われらの時代”ですが、短編の合間にさらに短い章立ての文章が入っており、「意味がわかんなかった」という方が多かったです。はい、私も意味はわからないのですが、特に変だとも思わずスルーしてました。ちなみに、章だけピックアップして読んでもちょっとよくわからんかったのですが、ヘミングウェイ自身が戦争で目にした光景を回想している“というご指摘に”なるほど…“と思いました。当時の世相や世界情勢に深くかかわっていると思われるのですが、なかなかそこまで理解がおよびませんでした。ただとても新鮮な編纂だなという印象です。

■短編のお手本

わかる、わからないに関わらず、作品のすばらしさ、作家の凄さが感じられる一冊であることは見解が一致していました。全体の構想を練り上げたうえで、余計なものをそぎ落し、エッセンスを小出しにしてくる。突然ガツンと物語が始まり、シンプルなセンテンスで綴られる情景から、徐々に状況が明らかになります。読者は読み進めながら知っていくという楽しみをおぼえるわけです。だらだら説明しちゃダメなんだ!ということがよくわかりました…。少ない情報とシンプルな表現で最大限に伝え、悪いことも悪いとしないようなフラットな表現は、今読んでも全く古さを感じません。これにエンタメという要素を加えると、ハードボイルドなんだなと思いました。さらに、「殺し屋」のように、なにか起こるのかなとドキドキしながら読んでも何も起こらない読者の意表をつく仕立て、一見美しいムードの「雨の中の猫」でも倦怠期の夫婦、また美しいとされるもの(こと)の裏面、皮肉やユーモアなど、上質な絵画をみるように一篇一篇の作品を鑑賞したという方もいらっしゃいました。

なかなか手強い課題でしたが、参加者の皆さんが各々独特の感想をお持ちだったので新たな発見もあり、楽しい時間を過ごすことができました!ありがとうございました!

解決しきれなかった疑問もありますが、、今後の会を通して、徐々にヘミングウェイアニキに肉薄していければな!というところです。次回は「キリマンジャロの雪」など有名作品が収録された“ヘミングウェイ全短編2”で開催します。

2019.7.26開催、8.3記

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