第136回 東京小説読書会「シリーズ平成の5冊 第3回」開催報告
弊会では改元を記念して、これまでご参加いただいた皆さまの投票により「平成の5冊」を決定しました。今回から、これら5冊を課題本に開催してまいります。
今回は『何者』です。
第1回 『コンビニ人間』村田沙耶香著 2019.6.1
第2回 『火車』宮部みゆき著 2019.6.7
第3回 『何者』朝井リョウ著 2019.6.15
第4回 『ハーモニー』伊藤計劃著 2019.6.19
第5回 『1Q84』村上春樹著 2019.8.24(予定)
■投票時のコメント
「平成の5冊」の投票で、
〇平成生まれの著者が描く、平成のコミュニケーション、その裏と表。 〇がむしゃらに頑張る人を馬鹿にする現代の風潮に物申したい。 〇平成後半のSNSの活用状況や学生の空気感を上手く表現している作品だと思います。 〇平成生まれ初の直木賞。平成らしい作品かなと思います。
といったコメントがありました。
今回は若い参加者さんの方から同世代の意見を代弁してくれているというコメントがあり、30代後半の参加者さんからも昔を思い出すという話もあり、就活というのは年代を超えて共通する雰囲気があることを教えてもらいました。
■ストーリーについて
さて、ストーリーのおさらいです。
※※※以下ネタバレを含みます※※※
大学の中くらいまで演劇をやっていたタクトは光太郎とルームシェアしている。
そんな2人も卒業が近づき、就活を行うことになった。
光太郎の元カノ、瑞月。
瑞月の友人でタクトと光太郎の上の階に住む、理恵。
理恵の彼氏、高良。
演劇の先輩、先輩。
一緒に演劇に打ち込んでいた銀次。
タクトや他の登場人物の就活などの話を通じて描かれる、タクトのお話です。
■就活!
まったくもって就活の話なので、就活の話で盛り上がりました。
なかなか30前後までの方が多く、最近の話として語られるので、37才として昔のことを見ているようで楽しかったです。
また、就職氷河期に書かれた作品のせいか20代前半の見ている大学生活や就活とは違うのではないかと感じました。
■なぜタクトは就活がうまくいかないのか…。
主人公であるタクトは最後まで就活がうまくいったという描写のないまま終わります。
作品を通して、普通の大学生といった印象のタクトはなぜ就活がうまくいかないのか、中心の話題の一つでした。
話している中で出てきたのは、実のところ自信がないからではないかという点でした。
劇団で脚本を書いていたというっても学生レベルだと感じている。
瑞月や光太郎を見ても一歩引きながら見てしまう。
理恵や高良を見下しながら付き合っている。
そして、これらのことを「nanimono」というtwitterの裏アカウントでリアルタイムにつぶやいている。
こういうところが就活をしていてうまくいかなかったポイントではないかという結論になりました。
ただ、一方で私からすると劇団で脚本を書くというクリエイティブな行為をしていたにもかかわらず、自信を持てないのか不思議になりました。
作ったものを見てもらう立場の人間は色々言われることも多いのに、脚本を書き続けたことは惰性や流される以上の何かがあったと思うのですが…。
■タクトと理恵の言い合い
最後にタクトは理恵に自分の裏垢『何者』がバレます。
タクトが作中で思っていたことは『何者』に書かれていました。
PCアドレスを一瞬見てそれでtwitterのアカウント検索した理恵の記憶力は驚異的です(笑)
タクトに思いをぶつけるうちに激高していく理恵と追いつめられるタクト。
この緊迫したシーンはこの小説最大の山場です。
でも、お互いに本音をぶつけ合う機会を持てたことは大変良かったと思います。
なかなか、自分の弱いところを直視せざるを得ないというシチュエーションはないですし、
その弱いところに向かい合って検証する場もあるのはうらやましいですね。
■最後に
何者はあくまで登場人物の就活を描いた話ですが、これは平成の就活一般に共通する空気感を持っていました。
令和になりましたが、少子化やグローバル化で就活環境が大きく変わっていることがニュースや身の回りの雰囲気でも結構感じます。
いずれ受験の課題に取り上げられたりして、就活とは何ぞやみたいに扱われるのでしょうか。
そう考えると少し楽しみですね。
◇
さてさて、遅くなりましたが平成の5冊シリーズ第3回は終了です。
次回は就活を描いた名作『何者』です。
お楽しみに!
2019.6.7開催、6.19記
<参考>東京小説読書会が選ぶ平成の5冊
第1位(8票)『ハーモニー』 伊藤計劃著 2008(平成20)年
第2位(7票)『火車』 宮部みゆき 1992(平成4)年
第3位(6票)『1Q84』 村上春樹著 2009~10(平成21~22)年
『何者』 朝井リョウ著 2012(平成24)年
第5位(5票)『ねじまき鳥クロニクル』 村上春樹著 1994~95(平成6~7)年
『コンビニ人間』 村田沙耶香 2016(平成28)年
※これらのなかから、直近半年間で課題本にした『ねじまき鳥クロニクル』を除く5冊を、課題図書に選定しました。
投票期間:2019年1月4日~4月30日
投票総数:234票
投票者数:51名
投票規定:1人最大5冊(作)まで。平成の間に日本語で出版された小説で、単行本、雑誌掲載作、書き下ろしの文庫が投票対象。読んだことのある作品のみ投票可。