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第138回 東京小説読書会の報告


こんにちは!SHOKOです。2019年6月28日、東京小説読書会「長篇(シリーズ)読破版」の第16回目として、谷崎潤一郎著「細雪 下」(新潮文庫)を課題本に読書会を行いました。

「細雪」は谷崎潤一郎の代表的な長編小説で、戦前の大阪の旧家を舞台に、四姉妹の日常が綴られた作品です。長女・鶴子、次女・幸子はすでに嫁いでおり、読者の関心を惹くのは主に未婚の三女・雪子、四女・妙子になるように物語が進行します。雪子の見合いや近所のドイツ人一家との交流など、ほのぼのとした日々が描かれていた上巻。そして、中巻になると、関西地方を襲った大きな水害から、こいさんこと四女・妙子の進歩的な恋愛模様など上巻の平穏な日常が一転するような出来事が立て続けに起こります。そして今回下巻!…想像以上に激動でした。。一見穏やかに見えていた人間関係、その水面下では実はいろいろあったんだなあ、やっぱり女って…、となかなか刺激的な展開でした。これを太平洋戦争が勃発した年から、戦中にかけて執筆し続けていた谷崎って何を考えていたのでしょう…。個人的にはこの作品を読んでからは、他の小説を読んでも手ごたえ薄いというか物足りない気分になってしまう日々が続いています。。。

以下、重大なネタバレを含みます。

■幸子、おつかれさま!

毎度毎度、妹たちのためにあれこれ悩んでは涙し(当人は悩んでないのに)、眠れぬ夜を過ごし、姉・鶴子や夫・貞之助と妹たちの間にたって右往左往してしまう、、こんなに姉妹のために身を粉にして働くひとっているんでしょうか…。中巻では小休止だった雪子のお見合いがまたざくざく持ち上がってきたため、外交担当の幸子が大忙しです。そもそも“雪子が独身であることに関して危機感がなさすぎる!”という指摘がある通り、明らかに世間的には“行き遅れ”である妹に対して身内とはいえ贔屓目がすぎる、おめでたい人だなという痛烈な批判もありました。この期に及んで雪子の美貌を見せびらかそうという気分でいる幸子さん、呑気すぎやしないかという見解があり新鮮でした。個人的には彼女に対して嫌な印象はなく、むしろ感情移入しやすい存在でした。そう言われれば、結婚しているとはいえ、家庭を切り盛りしているわけではないのでちょっと世間一般とずれているところはあるように見受けられます。雪子の結婚や妙子の言動についての態度は建前であるべきものが、意識に沁みついてしまっているようですよね。大事なところで思わぬ災難に遭い、それでも学習しないところはありましたが(!)、行動のわかりやすさが可愛いと思ったのです、、。そんな幸子さんは四姉妹人気投票で今回見事1位に。本当にお疲れ様という気持ちをこめて、雪子と妙子は幸子に感謝と謝罪をすべき!という適格なご指摘に爆笑。南京虫以外の悩みはなかった貞之助さんとの奈良ホテルへの旅行の場面は、楽しく読めてほのぼのしましたね。。

■妙子の心の闇?

前回までは四姉妹のなかでは浮いた存在ではあるものの、現代女性にも通じるような生き様にまぁまぁ好感度高めだったのですが、、下巻で“男にたかってた…”というところが腐れ縁の啓坊のばあやに物証とともに暴露されてしまい、、個人的にはドン引きでした。嘘ついてたんかい!とがっかりしつつ、やはり、働く女性は環境も立場も収入もまだまだ厳しい時代だったのだなぁと改めて実感してしまいました。素直に啓ちゃんに買ってもらったと申告しとけばよかったんでは?と不思議だったのですが、その辺はやはり女同士のマウンティングだというご指摘がありました。また、姉たちが極端に雪子を贔屓するところも、妙子の不信感を買い、理解しあえないから本当のことを言っても仕方ないという気持ちにさせる要因の一つになったのでは?という見解もありました。男性たちが自分に投資してくれることを当然と捉え、彼女なりの理屈があったかもしれませんが、それを説明するのが面倒、というところかもしれなかったですね。こいさんは下巻でも波乱万丈でした(作中何度死にそうになってるんだろう…?ちょっと気の毒なくらいです)。正直、結婚したところで果たして幸せになれるのかしら?と思います。

■雪子のお見合いの顛末

性悪な(笑)姉妹のなかでも、やっぱり美貌とともに一番性格悪いのでは?という評判だった雪子。妙子の素行についての批判を一刀両断に言い放ったところは結構スカっとして、個人的には高得点だったのですが、他の方々はそうでもなかったみたいです。。特に見合い相手たちに対する態度がひどいというご指摘がありました。豊橋での見合いの帰りの汽車で、たまたま乗り合わせた昔の見合い相手をこき下ろすところは確かに“何様?”な感じです。さらに、見合い相手が電話をかけてきたときの態度も、やはりちょっとダメすぎますよね。30過ぎたいい大人の態度とは思えません。。あちこちに出かけるたびに、年齢の割に若々しいということが表現されるのですが、この“若さ”というのは実は成熟していない彼女たちを痛烈に批判しているのでは?という見解がありました。谷崎は女性崇拝者だからと素直に称賛を受け止めていたけど、実は違う見方もあるのかもしれません。また、このまま結婚しないのかなと読者に思わせておきながら、それを裏切るような結末も面白かったです。ただ、“この人がいい”と主体的に相手を選んでいないところが期待通りでよかったという方がいらっしゃいました。結婚が決まったからといって、それほど嬉しそうでもないですよね。(どうしたいんだ!)何度も見合いした揚げ句、無職で家柄だけがいい男を選んでいるところに衝撃を受けてしまいました。「世慣れてない女の子が、夢しか語らない男を好きになっちゃうみたい…」「結局自分を持ち上げてくれる男を選んだ」等々様々な意見がでました。そもそもそんなに結婚したいわけじゃないんだよ、という指摘があったのですが、なるほど、物語のラストはなんと!美人が下痢するという“細雪”のイメージらしからぬ展開でした。マリッジブルー?という解釈も面白かったです。

■鶴子もいるんだよ

物語は途中で“蒔岡家の三姉妹”と描写されてしまうほど、存在の薄い鶴子、、妹たちの芝居見物やら楽しい行事に誘われず泣いてしまう気持ち、、わかります。実は四姉妹そろう場面があまりないんですよね。細雪といったら四姉妹というイメージが本編を読んでしまうと覆ります。すでに下の3人とは違って、夫との生活がだいぶ大きくなっているから考え方もだいぶ違いますよね。実の妹(こいさん)が大病したときの手紙はあんまりじゃないの?とは思いましたが、彼女の立場からしたら仕方ないのかな!最後のほうは生活もカツカツな印象だったし、、子沢山だと色々大変なのは今も昔も。。。

この四姉妹の人間模様に姉妹のいる参加者の方は、自分たちの境遇をかさねてしまったという感想もありました。ここまで相互援助の姿勢はなくとも、姉妹の心情に普遍的なものはあるようです。華やかで繊細なイメージの作品でしたが、下巻まで読んだことでその印象が変わりました。ただ美しいだけではない女たちの内側まで描かれ、上巻から下巻まで意外性のある展開で物語に惹き込まれました。上中下巻の順番で読まなくても面白いかもね、という話もでたのですが、本当にどこをとっても上質、小説を読むひとときの贅沢さを改めて感じさせてくれる作品でした。

“細雪”がファースト谷崎作品だったという参加者の方が2名いらっしゃいました。また、今回全参加者の方が“読んでよかった!”ということで、本当に課題本にしてよかったです。そして、本シリーズでは初めて全員が上中下巻参加皆勤賞となりました!

参加者のみなさま、ありがとうございました!

2019.6.28開催、7.5記

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