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第133回 東京小説読書会の報告


こんにちは!SHOKOです。2019年5月31日、東京小説読書会「長篇(シリーズ)読破版」の第15回目として、谷崎潤一郎著「細雪 中」(新潮文庫)を課題本に読書会を行いました。

「細雪」は谷崎潤一郎の代表的な長編小説で、戦前の大阪の旧家を舞台に、四姉妹の日常が綴られた作品です。全篇の会話が“船場言葉”で書かれています。ちなみに、この通常の関西弁とは違う“船場言葉”ですが、大阪市船場の商家で用いられた言葉で、商いという職業柄、丁寧で上品な言葉遣いが求められたため、京言葉の表現が取り入れられ独自の語感や表現が発達したということです。現在ではほとんど残っていないという独特の言葉は、浪花の商人というより、どこか貴族的なはんなりとした印象を受けます。

この小説は、谷崎夫人である松子さんの義姉、義妹たちの生活を題材として昭和18年の「中央公論」に掲載されたのですが、当時「戦時にそぐわない」ということで掲載中止になりました。それでも谷崎は執筆を進め、完結したのは戦後になってでした。

今回は、いつも以上に連続して参加してくださる方が多くてとても嬉しいです。また、中巻から参加してくださった読書会自体初体験という女性は、「今まで読んだ小説のなかで一番面白かった!」とおっしゃっていました。さすが昭和から平成へ、そして今、令和へ読み継がれている名作です。

以下、重大なネタバレを含みます。

■なにも起こらないと油断してたら…

中巻になったら笑っちゃうくらいさまざまな事件がおこりました。上巻に比べて動的で面白かったというのが参加者全員一致の見解でした。また“アンチ雪子”派の方からは、「雪子があんまり出てこなかったからよかった」という忌憚ないご意見も伺いました。

それほど長くはない中巻ですが、阪神地方を襲った大きな水害あり(四姉妹の一人が欠けるかとハラハラした…)、幸子さんたちの東京行きあり(2回も!その豪遊っぷりに貞之助さんの懐が心配になりました)、台風騒動あり(ちょっとどたばたコメディみたい)、気のいいドイツ人一家は帰国してしまうし(戦後も無事でいただろうか…?)、こいさんの身分違いの恋(?)とその顛末等々、盛りだくさんな内容でした。面白いおばあちゃんのいるロシア人一家の娘さんもイギリスへ行ってしまうし、華やかな物語の中にも暗い戦争の気配が忍び込んでいるようでした。第一次大戦の戦勝国として、いけいけドンドン、、いや、上昇志向で大胆な時代の雰囲気を伝えながら、過ぎ去った日々を懐かしむような作者の気分を感じます。

■こいさんの恋

今回は四姉妹の末っ子・妙子(こいさん)のターンでしたよね。この現代的で実利主義なお嬢さんは、考えにも行動にも共感できることが多くて女性からの支持者の多い登場人物なのですが、中巻の最初から最後までで、ひとつのラブストーリーになってしまうのでは?というくらい、ドラマチックな展開でした。神戸の水害の際に、命がけでこいさんを助けたカメラマンの板倉が、や・は・りな流れで急接近するわけで、個人的には板倉いいわぁ~と好感を持ち、他の人(蒔岡家のね)の評価があまりに低くて可哀そうにと肩入れしてしまったのですが、“やはり助けに行ったときは下心があっただろうし、飄々として何を考えているかわからなくてちょっと…”と、参加者の女性から冷静なご意見を伺いました。また、幸子の評価については、比較対象が自分の夫である“貞之助”だから仕方ない、、と聞いてすごく腑に落ちました。前回に引き続き“理想の夫・貞之助さん”の地位は盤石なようです。家柄も人柄も、さらに稼ぎも問題ない、このやっかいな女だらけの家庭に波風立てずに上手く立ち振る舞う素敵な旦那様。(絶対女兄弟がいたよね!)

それにしても、女性から見るとこいさんの行動は明快に見えたのですが、貞之助さんや唯一の男性参加者からは“何を考えているかわからないから、あまり関わりたくない”タイプらしいです。進む方向が読めない!というのはなんとなくわかりますけどね。働く!とか洋行する!とか、、確かに一緒にいる男性からしたらちょっと疲れるのかもしれないです。ここで語られるこいさんの結婚観(相手に求めるもの→愛情と健康と自活する力)に頷く女性は多かったのではないでしょうか。そしてその3大要素を備えた板倉が、最後にあんなことになるというのは衝撃的でした。

個人的には板倉の死はびっくりだったのですが、他の参加者の方は“周囲の評価の低さから、なんとなく想定内だった…”と指摘されてしまいました。(そんなもんなの?)

■雪子に学ぶモテ?

最近婚活をしてました!という参加者の方から“雪子の気持ちがとてもよくわかります!”という感想を伺って、しばし婚活ネタで盛り上がったのでした。相手に会っても、「これ!」という決定打がない(好きでも嫌いでもない…)というのはよく聞きますが、雪子(蒔岡家)の場合は結構選り好みが激しいだけだよなーと思いますよ。今回、それほど存在感は発揮していない雪子ですが、はっきりと主張せずに自分の思うように周りを動かすという才覚は相変わらずでしたね。東京に帰りたくないと匂わせて、まんまと姪の看病の名目で芦屋に居続けたりしてました。

そして、谷崎ってやはり“足フェチだぜ…”と思ったのが、妙子が雪子の足の爪を切るシーン。貞之助に見られてすっと足を隠すところは、その間に天然の計算が隠れてる!というご意見があがりました。妙子の大胆さに色気を感じなくても、雪子のようなはっきりしない、ちょっと他人任せな態度に、きっと男性は弱いんでしょうね。(女性には敵を作るタイプですけどね。)自分から動く妙子にくらべて、待ちの姿勢だけど周りのおかげで苦労せず生き抜いちゃうかもという、隠れた狡さを女は見逃しませんよ!義兄に預けたという妙子分の資産も、もしかしたら雪子のためにつかっちゃったんじゃない?という新たな疑惑が生まれたのでした…。

■雅な日本文化

本作は世界中で翻訳、出版されているのですが(ノーベル文学賞獲ってないのが不思議なくらいです)、非常にローカルな内容がなぜこんなにも海外で高い評価を得ているのかしら?と言ったところ、むしろその日本独特な内容だからこそ読まれるのでは?という見解を伺いました。外国人が憧れるような日本、そして女性の美しさが描かれているからこそ、日本を知らない人たちが憧れるのかもしれないということです。確かにこんなに美しく日本、そして日本女性を表現している作品はちょっとすぐ思い浮かばないです。これ読んで来日する人は現代の日本にちょっとがっかりするかもしれませんね…。東京生まれの谷崎があえて関西の女性たちを描いたのは、女性を通して“雅”なものを描こうとしたのではと指摘される方がいらっしゃいました。さらに雅を感じる描写のなかに、具体的な場所や出来事が散りばめられているため、情景をイメージしやすいというのもこの作品の魅力ですよね。(海外からの観光客を誘致するコンテンツの先駆けだったのでしょうか…)

時代を隔てても変わらない女性のリアリティを感じる作品を語り合うことで、改めて自分たちの生き方や女性の在り方を考えさせられる有意義な会となりました。

次回はいよいよ最終回。まだまだ続きそうな雪子の婚活、こいさんの恋愛模様がどういう結末を迎えるのか楽しみです。参加者の皆様、どうもありがとうございました!

2019.5.31開催、6.3記

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