top of page

第127回 東京小説読書会の報告


こんにちは!SHOKOです。2019年4月26日、東京小説読書会「長篇(シリーズ)読破版」の第14回目として、谷崎潤一郎著「細雪 上」(新潮文庫)を課題本に読書会を行いました。

「細雪」は谷崎潤一郎の代表的な長編小説で、戦前の大阪の旧家を舞台に、四姉妹の日常が綴られた作品です。全篇の会話が“船場言葉”で書かれています。ちなみに、この通常の関西弁とは違う“船場言葉”ですが、大阪市船場の商家で用いられた言葉で、商いという職業柄、丁寧で上品な言葉遣いが求められたため、京言葉の表現が取り入れられ独自の語感や表現が発達したということです。現在ではほとんど残っていないという独特の言葉は、浪花の商人というより、どこか貴族的なはんなりとした印象を受けます。

この小説は、谷崎夫人である松子さんの義姉、義妹たちの生活を題材として昭和18年の「中央公論」に掲載されたのですが、当時「戦時にそぐわない」ということで掲載中止になりました。それでも谷崎は執筆を進め、完結したのは戦後になってからということだったようです。当時の社会情勢とは真逆の絢爛豪華な内容の小説を書き続けるというところに、作者の並々ならぬ執念を感じますよね。その甲斐あってか、私が手にした本は“平成31年3月5日 121刷”です。きっと、令和以降も版を重ね、その時代時代の読者を魅了していくのでしょうね。

■4姉妹の個性

恒例の人気投票では、幸子が3票で1位、次いで妙子、雪子という順位でした。話題の中心は4姉妹の中でも一番美人と言われている3女雪子のお見合いなのですが、それに対してあれこれ気をまわしたり心配したりする幸子さんに共感する方が多かったようです。可愛らしい女性という印象もありますし、4姉妹のなかでも行動パターンがわかりやすいという印象でした。末っ子の妙子は、一番現代の女性に近く、唯一職業をもっているところや合理的な考え方をするあたりに親しみを持てます。他の3人の姉たちは、実家の羽振りのいい時代にチヤホヤされて育ったお姫様気質があるのに比べて、妙子の考えや行動パターンは毛色が違います。お金に関しても恋愛に関しても、しっかりちゃっかりしていますよね。さて、雪子ですが、何を考えているかわからない、はっきりと意見を言わないくせに、じわじわと自分のいいように物事を運んでしまう、、怖いよね、めんどくさいよね、と女性視点からはあまり好感は持たれませんでした…。でもきっと、こういう美人に振り回されたいと夢見る男性は少なくないんでしょう!また、4姉妹の雰囲気が、鶴子=船場、幸子=芦屋、雪子=京都、妙子=神戸という風に土地をイメージさせるものがあるというご指摘があり、なるほどーと思ったのでした。

■なにも起こりません、見合い以外は…

そうなんです。なんともゆったりゆったりと時は流れます。大事件は起こりません。美人なのに縁遠い雪子の見合いにみんなでヤキモキする、という平和な日常です。(戦時下で書かれたとは思えないくらい。いや、むしろ不穏な世の中だったからこのような作品を描きたかったのかもしれないですね。)

当時で30歳くらいの未婚の女性というのは、なかなか奇異な存在だったんじゃないかなぁ~と想像するのですが、それでもお見合いの話があるってすごいよね、と軽く話題になりました。お見合いの席で相手方に指摘されてしまう“シミ”って本当にあるのか疑問に思ったというご意見がありました。結婚すればなおる、とか言われているこの“シミ”、本当にそんなもんなのかい?って謎ですよね。当時は今のお化粧と違うから、いわゆる“白粉”を塗ってしまって余計目立ったのかねぇというご意見もありましたが、それにしても、未年の女云々のくだりもそうですが、未婚女性に対する世の中の評価って厳しかったですね…。相手の難癖もそうですが、蒔岡家の人々も、本当に雪子を結婚させたいの?と、同時の価値観と雪子の年齢から考えたら、相当ハードル高い印象です。雪子が“ふん”(うん?)と言わないから、というだけではない周囲の人々の拘りも感じられます。そして、その弊害が悦子に!というご指摘がありました。。雪子が可愛がりすぎるから、思い通りにならないとすぐ癇癪を起す難しい子になってしまってます。(心配!)当時の小学校低学年の女の子にしては、言動がなかなか過激ではないですか…?(お春どんに“殺す”とか言うって…怖い。。。)この叔母による姪の猫可愛がりって現代でもよく見かけるので、“変わらないなぁ”と思ってしまいました。

最後に、この女だらけの女のための作品のようななかでいい存在感を放つ“貞之助”さんは、全員一致で“理想の夫”(認定)となりました。この作品における男女の距離間は現代でも見習うべきところが多い気がします。

■谷崎の理想形

個人的にはこの作品を読んで、「あぁ、谷崎って本当に女性が大好きなんだなぁ~。」と谷崎が好きになりました。いやらしい意味ではなく、本当に女性という存在を崇拝しているような、そんな眼差しを感じてしまうのです。「理想の男性は?」と聞かれたら「谷崎潤一郎」と即答できるようになりました。何といっても、これほど女性を理解している男性っているんでしょうか?!と思えるくらい、女性同士の会話の生々しさにゾクゾクしてしまいます。やはり、雪子が理想形として描かれているのかなぁという意見に対して、四姉妹それぞれに“女性のこういうところが好きだ”という筆者の想いが現れているのでは?とおっしゃる方もいらっしゃいました。雪子については、美人というものの様式美が現れているという指摘がありました。また、妻や恋人というより、自分の娘のような存在なのではないかというご意見もありました。そして、この雪子は、一体、いい女なのか悪女なのかわからない!と言われる方がいて、、うむ、確かに、所謂“内弁慶”的な感じの態度には、この女性の二面性を垣間見る感じがします。ただの美人でないことだけは確かですね!

また、悦子の飼っている兎の耳を雪子が足の指(白足袋の)でつまむという描写には、作者の“癖”を感じて官能的な印象をうけました。(他作品と一線を画す作風で唯一!)

■四季折々の風景が

四姉妹のお花見の描写は、具体的な桜の名所が登場し、読者をワクワクさせます。活字を読んでいるのに風景を見たような気分になる、本当に華麗で美しい作品なので、何度も映像化されている理由がわかります。参加者の持参した本の表紙が昭和に映画化された際の写真付きだったので、“今だったらどの女優がどの役?”という話でひとしきり盛り上がったのですが、雪子のキャスティングは難航しました…。今の女優でこの雰囲気出せる人っているんだろうか…?そもそも今誰が美人女優なのか知らない…ということで、最後まで決まりませんでした。ちなみに、表紙では吉永小百合さんが雪子役だったのですが、確かに一番しっくりくるのです。ちなみに、奔放な四女・妙子には結構いろんな女優さんの名前が挙がって配役しやすい感がありました。

最近、“平成の五冊”企画が開催されていましたが、この作品ほど日常を芸術的に高めて綴られた作品が平成にあったのかなぁと考えると、私が勉強不足なせいもあるかもしれませんが、ちょっと思い浮かびませんでした。そういう意味でも(?)平成から令和に時代がうつるタイミングで読み返す機会ができてよかったと思います。しばし浮世を忘れて、古き佳き日本のゆったり流れる時間に身を委ねる贅沢な読書会となりました。参加者のみなさん、ありがとうございました。次回は「細雪 中」です。雪子の縁談の行方は…?

2019.4.26開催、4.29 記

bottom of page