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第87回 東京小説読書会の報告

  • 2018年7月7日
  • 読了時間: 7分

こんにちは!SHOKOです。2018年6月29日、東京小説読書会「長篇読破版」の第4回目として三島由紀夫著『豊饒の海第四巻 天人五衰』を課題本に読書会を行いました。3月から始まったこのシリーズもいよいよ最終回ということで、4回にわたって開催した豊饒の海読書会の総括の場としても、初参加の方1名を含む7人(女性5人、男性2人)で大いに盛り上がりました。

以下、重大なネタバレを含みます。

『豊饒の海』は、三島由紀夫最後の長編小説で、シリーズ全体は平安時代後期の「浜松中納言物語」を拠り所とした夢と転生の物語です。第四巻「天人五衰」は、転生の神秘に取りつかれ老境に入った本多が、旅先で通信社に努める16歳の安永透に出会い、生まれ変わりの証である黒子を目にし、彼を自分の後継者(養子)として迎えるところから物語が大きく動いていくのでした。老いてますます迷走する本多、果たしてどうなってしまうのでしょうか…。

■透という存在

妻を亡くしたものの、使い切れないほどの財産を持ち悠々自適な老後を送っていた本多が、親友(と言っていいでしょう)・慶子と静岡へ旅行した際に出会ったのが安永透という通信社に勤める16歳の少年でした。もちろん美形。この出会いについて、運命的といえばそうなのですが、意味づけというのは結局後からもたらされるもので、目に入ったもの、出会ったものについて、偶然か必然かは、その人の心持ちに依るんじゃない?という意見がありました。 この出会いは、本多が転生を探そうとする焦りがもたらしたものなのかもしれないですよね。というのは、この透少年、参加者からの評価が低めです。。。清顕、勲、ジン・ジャンという流れからきて、明らかに“平凡”じゃないかしら? と。能力や容姿は常人より上かもしれないけれど、底の浅さが見える、結構こういうタイプっているよね? というところで、今までの流れからみると際立った個性、美しさが感じられないかもしれません。結構その辺にいそうな今どきの若者じゃないかと思ってしまうくらい現代的、他の人物に比べ感覚が近い印象です。 また、本多と出会っていなければ一体どうなったんだろうね? という話題になり、平凡で幸せな人生を送ったかも、いや野心的だからそこには収まらなかったかもなどなど、ある意味、透も本多の神秘思想の? 被害者かもしれません。さらに、養子縁組の話を進める前に身上調査をしてるあたり、本多にも転生としての疑いがあったのではないでしょうか。転生というより、透がもつダークな面と自分に共通点を見出し惹かれてしまったのもしれません。物語が進むにつれて破綻していく本多と透の関係性、人物そのものから“悪”とは?を考えさせられた、という感想がありました。

■仲良くなりたくないけど気になる絹江

過去の経緯は具体的に書かれていませんが、通信社に勤める透の唯一の話し相手として、失恋のショックから精神を病み妄想のなかに生きる絹江という女性が描かれています。その容姿が原因で失恋したらしいのですが、醜さの決定的な表現は見当たらないということで、実は容姿については読者の想像に委ねられているようです。というわけで、実はビジュアルは普通なんじゃないの? 地元の地主の娘だったら実は悪い境遇じゃないよね? と、絹江についてはその発言内容の面白さからも、かなり気になる存在! として軽く盛り上がりました。 絹江が帰った後の「あれだけの醜さも、ひとたび不在になれば、美しさとどこに変りがあるだろう。」という表現にハッとさせられる一方、そんなことを考えちゃう透はやばいよねという冷静なご意見も。絹江の描く彼女だけの世界をなぜか100%肯定する透との不思議な関係について、周囲の様子など全く気にしない絹江は超然として安定した存在、実は生い立ちが不遇な透にとって自分よりかわいそうな(不遇な)存在を見ることで精神的に救われている、どんな人も自分の思うように操ることができる透が唯一御することができない存在だからM的な本質がとりこまれるのでは等々、さまざまな意見がありました。最終的には本多の財産も透との家庭も手に入れ、ある意味一番の勝ち組だったりします。

■ブレない女性たち

その言動に老いの醜さがますます加わっていく本多にくらべて、慶子はますます元気になっています。どうも、この作品では男性は老いて惨めになっていくのに比べ、女性陣は活き活きとその人生を楽しんでいるような印象を受けます。(なので女性としては嬉しい。)本多を迫害して調子にのってる透に慶子が事実を告げる場面は、それまでイライラするような透の独白を読んだ後なだけにスカっとしました。 第三巻から登場した慶子の行動には一貫性がありブレがありません。(かっこいい!)絹江しかり、最後の最後に登場する「春の雪」のヒロイン・聡子しかり、転生ではないものの、その人生のなかで変わっていく本多やそのほかの男性陣と違い、いい意味で“変わらない”ようです。聡子に至っては醜くなるどころか浄化という真逆の方向で年を重ねていったのですから。

■三島の嫌悪する老いとは?

本多が前半で語る天人の五衰の相は、衣服が垢にまみれ、腋窩から汗が流れ、身体が忌まわしい臭気を放つという、、人間の晩年と重ねて切なくなりますが、本編では16歳の透が登場することで本多の老残が強調されるようです。自分が老人になったときのことを重ね、年をとりたくないと作者は切実に思ったのではないか、というご意見がありました。というか、きっと三島は本多みたいなジジイになったんだろうなと思うのでした。(それを避ける意味でも早死にしたかったのか…)

■シリーズ全体のテーマ「輪廻転生」

第三巻から生まれ変わりのキー(夢とか記憶とか)があまり描かれなくなっています。本編ではすっかりそういう描写がありません。また、本多夫婦に実子をもたせなかったのも、この晩年を描く上でのポイントだったんじゃないかという話がありました。物理的な輪廻転生というよりも、魂(本多の想念?)がその時その時で本多の目の前にいる誰かに乗り移るようにしてめぐっていたのかもしれない、結局「生まれ変わり」の終わりってわからない、と色々な感想がありました。実はそんなに理屈立てて考える必要はないんじゃ~という意見に納得してしまったのですが、物語の構成が全篇を通して円のように循環する世界観を堪能できるのがいいという指摘に納得するのでした。

■衝撃的すぎるラスト

読み終わって眠れなくなるほど衝撃的だったという方がいるほど斬新(残酷?)なラスト!私も初めに読んだとき「え?」と思いました。わざわざ奈良まで会いに来た本多に「清顕さんという方は、どういうお人やしな?」と東京生まれのはずなのに、、流暢な関西弁で問う聡子の態度に愕然とした人は少なくないでしょう。ここは、単にすっとぼけて意地悪してるのかしら? と思ってみたりしたのですが、人の記憶というのは曖昧なものだし、人によって見方が違う、本当に松枝清顕という人は存在しなかったという可能性もあり、それは「奔馬」で本多が清顕の墓前で「墓の中には誰もいない」と確信をしたところとリンクするという見解になるほど! と思いました。また、ここに至っても迷いがあり過去(というか清顕の夢)に囚われていた本多だからこそ、過去を捨てて決然と生きてきた聡子の一言に簡単に落ちてしまったというご意見もよくわかります。本多のようにならないよう気を付けたいものです。。。

ちなみに、4巻の人気投票を行ったところ、1位「奔馬」4票、2位「春の雪」3票という結果でした。圧倒的に美しい世界観を堪能する「春の雪」、輪廻が巡りだした疾走感のある「奔馬」の印象に尽きるんですかねぇ~。とはいえ、4巻それぞれに独特のトーンがあるので比べるのは難しいのです。

まだ寒い時期に始まった本シリーズの読書会も梅雨明けとともに無事読了の会を迎えることができました。作品の全篇の流れを踏まえて大きな視点から意見交換ができるのは、長篇小説を語り合う面白さの一つでしょう。謎はやはり謎のままでしたが(笑)、一人では思いつかないような様々な「解」を知り、小説を読む楽しさを改めて実感することができました。

参加者の皆様、どうもありがとうござました!

2018.6.29開催、7.1記(SHOKO)

 
 
 

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