第37回 東京小説読書会の報告
こんにちは。Uranoです。 通算9回目の課題図書型読書会は、川端康成著『掌の小説』をテーマに開催しました。ちょっと冒険したセレクトでしたが、5名にご参加いただきました。600ページのガチな文学にお付き合いくださり、ありがとうございました。
『掌の小説』は、川端が40年にわたり書き続けた、122篇の掌篇小説(ショートショート)集です。1作は平均6ページほど。短いものは1ページ半、長いものでも12ページしかありません。作風は私小説あり、幻想文学あり、ミステリーありといった感じですが、最も多いのが恋愛モノ。それも、踊子やダンサアに惚れる男(=川端)のネタが多く、「また踊子ですか。川端先生も好きですねぇ」とつぶやきながら読むこと必至です。
この件については「谷崎潤一郎と川端康成は同年代の文豪としてよく比較されるが、谷崎はモテ、川端は非モテだった。それが証拠に、川端は玄人ばかり追いかけているではないか!」という意見が出ました。まさしく!
そんな川端が書くのですから、おおむね読者の共感を得られません。たとえば、私が名作として激賞した、夫婦喧嘩がテーマの「喧嘩」には、とりわけお二人の女性参加者から辛辣な否定意見が。 「オチでいい話っぽく見せているだけ」 「『掌の小説』にはドン引きした作品がいくつもあったが、『喧嘩』は引いた距離が最長だった」 といった具合です。
うーん、ダメかぁ。
それはさておき、そのほか意見が集中した作品を、参加者の声とともにご紹介します。(番号は掲載順、ページは平成23年改版)
1. 骨拾い(P.11) ・一話目からして意味が分からなかった。 ・確かに分かりにくい作品だが、二度読んでみて「いい話だなー」と思った。巻頭にふさわしい。
7. バッタと鈴虫(P.40) ・バッタを鈴虫だと思い込めないのが、川端の悲しいところ。信じてしまえば楽になるのに!
11. 金糸雀(カナリヤ)(P.55) ・作風が川端っぽくないが、「切羽詰まっている感」はある。 ・くどい一人語りが、むしろ太宰っぽい。 ・というか、ただの面倒な男の話でしょ。
18. 死顔の出来事(P.76) ・亡き妻の顔を手でなでるという発想がとてもいい。 ・本集の中では比較的、美しい作品。
29. 玉台(P.127) ・オチがよくて「なるほどねー」と思った。 ・そんなに深いオチだったっけ? まったく理解できていなかった。 ・男同士だからこそできる二人語り。女性が登場したら会話は途中で止まっていただろう。
45. 朝の爪(P.201) ・「だから何?」としか思えなかった。 ・いや、個人的にはしっくりきた。共感できる。 ・爪を切る話、ところどころに出てくるよね。
52. 駿河の令嬢(P.226)
・隠しようのない川端作品。「作者はだれ?」というクイズにしても多くの人が正解しそう。 ・むしろタイトルだけで川端と類推できる。
57. 盲目と少女(P.256) ・川端は最後まで盲目の呪いから逃げられなかったんだな(※幼い川端を引き取った祖父が盲目だった)。 ・こっちが盲目なら少女も言うことを聞いてくれるという発想がおかしい。
68. 士族(P.318) ・「絵が好きならうちへいらっしゃい」と言って少女を誘うなんて。いけない大人を描かせたら川端はヤバい。 ・でもこれって最後まで元士族としてのプライドは持ち続けてたよね?
・プライドがあったら誘わないって!
74. 顕微鏡怪談(P.358) ・122篇のうち、ベスト気持ち悪い作品。 ・もてない男のキモ話は、ここまで「はいはい、そうですか」と読み飛ばしてきたが、ここにきて本当にキモイのがきた。 ・キモさより痛くて正視できず、まともに読めなかった。
75. 踊子旅風俗(P.363)
・パーッとして明るく、キラキラした雰囲気がとてもきれい。
78. 化粧の天使達(P.391) ・玄人と結婚したい川端先生の願望が、そのまま小説化されている。 ・短いからこそ凝縮されているところが美点。
83. 眠り癖(P.428) ・このあたりから、丸くなった作品が増えた気がする。 ・素人の女性とようやく付き合えたんですね、川端先生!
90. 舞踊会の夜(P.453) ・高尚な男女の群像劇が三島由紀夫っぽい。 ・階級社会を見せつけられた。 ・川端も普通の男女の物語を書けるんだ、と思った。
101. 五拾銭銀貨(P.510) ・母が死に、三越での買物が美しい思い出になった。この展開が絶妙。
108. 卵(P.554) ・122篇中、最高傑作だと思う。 ・どこが? ・セリフにユーモアがあって笑えるし、箱根の出来事と夢の出来事をリンクしたファンタジックな展開もいいし。 ・ごめん。ほとんど覚えていない。
117. 不死(P.603) ・本集の最後のほうには幻想的な作品が多いが、なかでも出色の出来。 ・でもやっぱり、好きな女には18歳のままでいてほしいんだな。真正ロリだな。
以上、今回も言いたい放題でしたが、参加者からは「読んでよかった」という前向きな感想をいただきました。 「テーマ本でなかったら読んでいなかった。とても楽しめたし、選んでもらってよかった」 「この一冊で川端のすべてが分かる。これから川端を読もうという人に、真っ先におすすめしたい作品を知ることができた」 などなど。 ありがとうございます!
次回の課題図書型は5月17日(水)、連城三紀彦著『恋文』をテーマに開催します。
ぜひご参加ください。
ではでは。